遺言書作成
遺言書作成の必要性-なぜ遺言を残しておく必要があるのかー
遺言書は、単に「財産の分け方」を書くためだけのものではありません。
ご自身の大切な財産を、誰に、どのように引き継いでもらうのかを、あらかじめ明確にしておくための意思表示です。
遺言書がない場合、残されたご家族は、相続人全員で話し合いをして、財産の分け方を決める必要があります。
しかし、相続では、今まで仲の良かったご家族であっても、
・「預貯金はどう分けるのか」
・「不動産を売るのか、残すのか」
・「一部の相続人だけが納得していない」
といった問題が起こることがあります。
特に不動産は、現金や預貯金のように簡単に分けることができません。
そのため、遺言書であらかじめ財産の行き先を決めておくことは、残されたご家族の負担を減らし、相続をめぐる争いを防ぐために重要です。
遺言書がない場合、相続はどうなるのか
遺言書がない場合、相続手続は主に次のいずれかの方法で進めることになります。
1 法定相続
法律で定められた相続人と相続分に従って、遺産を分ける方法です。
ただし、不動産について法定相続分どおりに相続すると、相続人全員の共有状態になることがあります。
共有状態になると、将来その不動産を売却したり、担保に入れたり、処分したりする際に、共有者全員の協力が必要になります。
一人でも協力しない相続人がいると、手続が進まなくなるおそれがあります。
2 遺産分割協議
相続人全員で話し合い、誰がどの財産を取得するかを決める方法です。
話し合いが円満にまとまればよいのですが、相続人のうち一人でも納得しない方がいると、協議は成立しません。
どうしても話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停や審判を行うことになります。
そうなると、時間も費用もかかり、ご家族間の関係が悪化してしまうこともあります。
遺言書で決めておけること
遺言書では、たとえば次のように、財産の帰属先を具体的に決めておくことができます。
・長男には自動車を相続させる。
・二男には預貯金のうち〇〇万円を相続させる。
・長女には預貯金のうち〇〇万円を相続させる。
このように、財産ごとに誰が取得するのかを具体的に決めておくことで、相続開始後の話し合いの負担を大きく減らすことができます。
特に不動産がある場合には、誰に取得させるのかを明確にしておくことが重要です。
遺言書作成の必要性が高いケース6選
次のような場合には、遺言書の作成を特に検討しておくことをおすすめします。
1 夫婦の間に子どもがおらず、親もすでに亡くなっている場合
夫婦の間に子どもがおらず、ご両親もすでに亡くなっている場合、配偶者だけでなく、兄弟姉妹も相続人になります。
この場合、法定相続分は、原則として次のとおりです。
・兄弟姉妹:4分の1
長年連れ添った配偶者にすべての財産を残したいと考えていても、遺言書がないと、兄弟姉妹との間で相続手続が必要になります。
一方で、兄弟姉妹には遺留分がありません。
そのため、「配偶者にすべての財産を相続させる」という内容の遺言書を作成しておけば、兄弟姉妹から遺留分を請求されることなく、配偶者に財産を残すことができます。
2 再婚しており、前の配偶者との間に子どもがいる場合
前の配偶者との間にお子様がいる場合、そのお子様にも相続権があります。
現在の配偶者と、前の配偶者とのお子様との間で、感情的な対立が生じることもあります。
このような場合、遺言書がないと、遺産分割協議が難航するおそれがあります。
誰にどの財産を残すのかを遺言書で明確にしておくことで、相続開始後の争いを防ぎやすくなります。
3 相続人ではない人に財産を残したい場合
たとえば、長男がすでに亡くなっており、その長男の配偶者に財産を残したいという場合があります。
しかし、長男の配偶者は、原則として義父母の相続人にはなりません。
長年介護をしてくれた方であっても、法律上の相続人でなければ、当然に財産を取得できるわけではありません。
このような場合には、遺言書で「遺贈(遺言による贈与)する」と定めておく必要があります。
4 内縁の夫婦の場合
長年夫婦同然に暮らしていても、婚姻届を出していない場合、内縁の配偶者には相続権がありません。
そのため、内縁の妻や夫に財産を残したい場合には、遺言書を作成しておく必要があります。
遺言書がなければ、内縁の配偶者は、原則として遺産を受け取ることができません。
5 個人事業主の方、家業や農業を承継させたい方
個人で事業を営んでいる方や、農業をしている方の場合、事業用の不動産、設備、預貯金などが複数の相続人に分散してしまうと、事業の継続が難しくなることがあります。
家業や事業を特定の方に引き継いでもらいたい場合には、その内容を遺言書で明確にしておくことが重要です。
事業承継を考える場合、単に財産を分けるだけでなく、事業を続けられる形で財産を承継させる視点が必要になります。
6 相続人がいない場合
相続人がまったくいない場合、特別な事情がなければ、最終的に遺産は国庫に帰属することになります。
お世話になった方に財産を残したい場合や、団体・施設などに寄付したい場合には、遺言書を作成しておく必要があります。
遺言書がなければ、ご自身の希望どおりに財産を引き継いでもらうことができない可能性があります。
自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきか
遺言書には、主に次のような方式があります。
自筆証書遺言書保管制度
公正証書遺言
費用を抑えて作成したい場合には、自筆証書遺言という選択肢があります。
ただし、自筆証書遺言は、形式不備や内容のあいまいさにより、後で問題になることがあります。
一方、公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため、形式不備のリスクが低く、相続手続でも使いやすい方式です。
相続人間で争いが予想される場合、不動産がある場合、相続人以外の方に財産を残したい場合などは、公正証書遺言を検討することが多いです。
まとめ
遺言書は、ご自身の財産の行き先を決めるだけでなく、残されたご家族が困らないようにするための大切な準備です。
特に、不動産がある場合、相続人同士の関係が複雑な場合、配偶者や特定の人に確実に財産を残したい場合には、遺言書の有無が相続手続の進み方を大きく左右します。
・「自筆証書遺言でよいのか、公正証書遺言にすべきか」
・「どのような内容にすれば、後で争いになりにくいのか」
このような点は、ご家族関係や財産内容によって判断が異なります。
当事務所では、相続人の構成や財産内容を確認したうえで、遺言書の作成方法や内容についてサポートいたします。
1.「自筆証書遺言」「遺言書保管制度」「公正証書遺言」の比較表
| 比較項目 | 自筆証書遺言 | 自筆証書遺言(法務局保管制度を利用) | 公正証書遺言 |
|---|---|---|---|
| 作成方法 | 本人が作成します。 本文・日付・氏名は原則として自書。 財産目録はパソコン作成や資料添付も可能です。 |
自筆で作成した遺言書を、法務局に預ける方式です。 様式・外形の確認を受けて保管します。 |
公証人が遺言内容を聞き取り、公正証書として作成します。 |
| 証人 | 不要 | 不要 | 2名以上必要 |
| 内容チェック | 第三者の関与がないため、形式不備や内容の不明確さが残ることがあります。 | 法務局は方式面・外形面を確認します。 ただし、内容の有効性や妥当性までは判断しません。 |
公証人が関与するため、形式不備のリスクは最も低いです。 |
| 保管場所 | 自宅、貸金庫、親族保管、遺言執行者保管など | 法務局(遺言書保管所) | 原本は公証役場で保管されます。 正本・謄本が交付されます。 |
| 費用の目安 | ほとんどかかりません。 専門家に依頼する場合は別途費用がかかります。 |
法務局手数料が1通3,900円かかります。 必要書類取得費等は別途必要です。 |
公証人手数料がかかります。 財産額や人数等により増減します。 |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 不要 |
| 紛失・改ざんリスク | 相対的に高いです。 見つからない、書き換えられる、隠されるおそれがあります。 |
低いです。 法務局保管のため、紛失・改ざんの心配が小さくなります。 |
低いです。 原本が公証役場に保管されます。 |
| 秘密性 | 高いです。 本人だけで作成しやすい方式です。 |
比較的高いです。 公証人や証人を立てずに利用できます。 |
証人2名と公証人が関与するため、相対的には低くなります。 |
| 主なメリット | 手軽で、費用を抑えやすい点です。 | 自筆の手軽さを残しつつ、検認不要・保管面の安心を得られます。 | 確実性が高く、相続手続で使いやすい点です。 |
| 主な注意点 | 形式不備・内容のあいまいさで無効になるリスク、有効に作成しても発見されないリスクに注意が必要です。 | 内容そのものの法的な有効性までは、法務局が保証するわけではありません。 | 費用、証人手配、事前準備、公証役場の予約が必要です。 |
| 向いているケース | まずは自分で遺言を残したい方。 内容が比較的シンプルな方。 |
自筆で作りたいが、検認を避けたい方。 保管面を重視する方。 |
相続人間の紛争予防を重視する方。 内容が複雑な方。 確実性を最優先したい方。 |
2 補足説明
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 検認とは | 家庭裁判所で、遺言書の存在と内容を相続人に知らせるとともに、遺言書の形状、日付、署名、加除訂正の状態などを確認し、偽造・変造を防ぐための手続です。 遺言が有効か無効かを判断する手続ではありません。 自宅等保管の自筆証書遺言では原則必要ですが、法務局保管制度を利用した自筆証書遺言と公正証書遺言では不要です。 |
| 遺言執行者とは | 遺言の内容を実現するために必要な手続を進める人です。 不動産の名義変更、預貯金の解約・払戻し、受遺者への引渡しなどを担います。 遺言で指定することができ、司法書士などの相続人以外の第三者を指定することもできます。 内容が複雑な場合や、相続人間で足並みがそろいにくい場合は、指定しておくと手続が進めやすくなります。 |
| 祭祀承継者とは | お墓、仏壇、位牌、家系図など、先祖をまつるためのものを管理し、法要等の中心となる人です。 これらの祭祀財産は、通常の相続財産とは別に扱われ、法定相続分どおりに分けるものではありません。 遺言で「祭祀を主宰すべき者」を指定しておくことができます。 指定がない場合は、慣習等により決まり、争いがあるときは家庭裁判所で定めることがあります。 なお、祭祀承継者に指定されたことだけで、法要費用等を当然にすべて負担するという意味ではありません。 |
| 遺留分とは | 一定の相続人に法律上認められている最低限の取り分です。 遺言書があっても、遺留分を侵害している場合には、後で金銭請求が問題になることがあります。 なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。 |
| 撤回・変更 | 遺言は、後から何度でも作り直すことができます。 新しい遺言が前の遺言と抵触する部分については、基本的に新しい内容が優先します。 したがって、事情が変わったときは、古い遺言を放置せず見直すことが重要です。 |
| 発見したときの注意 | 自宅等保管の自筆証書遺言を見つけた場合は、すぐに内容を実行しようとせず、まず検認が必要かを確認します。 法務局保管制度を利用している場合は、法務局で遺言書情報証明書の交付を受けて、その後の手続を進めます。 |
| 選び方の目安 | 費用を抑えて自分で作りたいなら自筆証書遺言。 費用を抑えつつ、保管面の不安や検認の負担を減らしたいなら遺言書保管制度。 確実性や紛争予防を重視するなら公正証書遺言、という整理が一般的です。 |
※一般的な比較表です。遺言の内容が複雑な場合や、相続人間で紛争が想定される場合は、公正証書遺言を優先的に検討することが多いです。
※個別の事情により、適した遺言の方式や必要な条項は異なります。相続人の構成や財産内容に応じて、別途の検討が必要です。
